第1回<身>の医療研究会会長講演(於:大阪) 

<身>の医療―心身医学から魂身医学へ

深尾篤嗣

茨木市保健医療センター

心身医学は、デカルトの心身二元論に基づく西洋近代医学へのアンチテーゼとして20世紀初頭に生まれた。しかし、医療人類学者Kirmayerが指摘しているように、欧米における近年の心身医学は、身体症状の心理的原因を探ることや、患者の理性的態度を前提とする治療法を中心とすることで近代医学の心身二元論へと逆戻りし、生物医学のパラダイムの一部を担う役割に押し込められてしまった。一方、Dosseyは、医学・医療を歴史的に、第一段階の物理的な身体医学・医療、第二段階の心身相関を認める心身医学・医療、そして霊性の介在を認める第三段階の医学・医療に分類している。

日本心身医学のパイオニア池見酉次郎は、Engelのモデルを改良した新しい心身医学モデルとしてbio-psycho-socio-eco-ethical medical modelを提唱した。さらに池見は、心身症の根源には失感情症、失体感症、失自然症などがあり、それらから解放されるためには西洋で開発されたソマティックスやソマティック心理学に注目しながら、それらと関連の深い座禅、瞑想、気功、ヨガなどの東洋の身心技法を再評価することの重要性を指摘し、「西洋流のpsychosomaticな医学に東洋のsomatopsychicなアプローチを統合することによって、真のホリスティック医学への道が拓ける」と東西の心身技法を統合する必要性を強調した。

日本独特の身体概念である身(み)」は、近代西洋医学の対象である「物理的(客観的)身体」(=三人称のからだ)のみならず、「心理的(主観的)身体」(=一人称のからだ)、「間主観的身体」(=二人称のからだ)、および「深層意識的身体」(=0人称のからだ:魂)を含む多層的関係的存在である東西の心身技法を統合し、患者を(生化学的機械としての)「身体」と(理性的な操作者としての)「心」に分けるのではなく身心一如の身」として捉える医療は、心身医学が生物医学のパラダイムから脱し、精神、身体、霊性を統合した第三段階医学・医療、“魂身医学”にシフトすることを実現することであろう。

【略歴】
1987年大阪医科大学卒業(医学博士)。同第一内科専攻医、九州大学心療内科特別研究学生、神甲会隈病院内科、洛和会音羽病院心療内科部長、藍野学院短大第1看護学科教授を経て、現在は茨木市保健医療センター所長。

[所属学会、役職、資格]
日本心身医学会(専門医、指導医、代議員)、日本心療内科学会(専門医、評議員、編集委員)、日本内分泌学会(専門医、指導医、代議員)、日本甲状腺学会(専門医、評議員)、日本内科学会(認定医)、日本トランスパーソナル心理学/精神医学会(理事)、日本ソマティック心理学協会(運営委員)日本医師会認定産業医、プロセスワーク初級プラクティショナー、<身>の医療研究会理事長、内分泌糖尿病心理行動研究会代表世話人。専門は心身医学と内分泌代謝学(特にバセドウ病と糖尿病)。

[著書]
編著『医療における心理行動科学的アプローチ―― 糖尿病/ホルモン疾患の患者と家族のために』
分担執筆『こころの癒し-スピリチュアル・ヒーリング』『心身医学用語事典』『甲状腺の病気 パーフェクトアンサー106』ほか