アレキシソミア研究会の活動報告:概念整理の現状と課題
○ 吉嶋かおり1)神原憲治2)村川治彦3)
1)セラピー&カウンセリング ルームVIEW 2)関西医科大学心療内科講座
3)関西大学人間健康学部
心身症やストレス関連疾患等においては、感情の気づきのみならず、本質的に身体(感覚)への気づきの低下が重要な意味を持っていると思われる。池見酉次郎は1970年代に、アレキシサイミア(失感情症)との関連において、「身体感覚の気づきの低下した」状態をアレキシソミア(失体感症)と呼び、そうした身体感覚の気づきの低下に注意を促した。しかし心身医学領域ではアレキシサイミアに比してアレキシソミアについての理論的、臨床的研究は今だ少ないのが現状である。
こうした現状に対し、報告者の三名が呼びかけ、アレキシソミア概念の検討と問題点・課題の整理を目的に2009年7月に発足したのがアレキシソミア研究会である。医師、大学教員、臨床心理士、薬剤師、栄養士、ボディ・ワーカー、アート・セラピストらが参加し、これまでほぼ2ヶ月に一度のペースで26回の研究会を重ね、臨床的にアレキシソミアと考えられるケースの検討を行い、アレキシソミアの定義とその関連概念や疾患の洗い出しと相違点などの整理を行ってきた。
この5年間の活動は、活動の内容に沿って第一期:先行研究や論文をもとにアレキシソミア概念の基本的理解と、症例をもとにした検討、第二期;アレキシソミアの特徴(①身体感覚の低下や偏在と主観と客観の乖離)の整理、第三期:Somatic Diary作成、の三期に分けられる。これまでの研究会の成果としては主に次の三点があげられる。①症例に基づきアレキシソミア概念を検討し概念定義における課題を整理。②体感自体を感じないというアレキシソミアの特徴からTAS20など通常の検査法ではアレキシソミアを把握するのは難しく、主観と客観のズレがポイントになるという仮説を立てた。③以上を踏まえ、患者自身が日常生活のなかで身体の状態をモニタリングし非言語的側面も含め継続的に記録することで自らの主観的体感を客観化すること、それによって患者の主観と臨床家の主観とのズレを対話で浮かび上がらせることを目的にSomatic Diaryを作成した。
この報告では、本研究会の活動内容を紹介することで、アレキシソミア研究における課題と今後のあり方について検討する材料を提供したい。