シンポジウムⅠ 気づきと身の医療
プロセスワークの多次元的身体――<身>を多次元的にとらえなおす――
演者名 藤井康子1)、富士見ユキオ2)
1)国立国際医療研究センター国府台病院心療内科 2)富士見ユキオ心理面接室
心身相関への気づきは、心身医学的治療の鍵である。理性的な観察者である治療者が、客体としての患者の身体(”It”、三人称としての身体)を扱うというのが、デカルトの心身二元論に基づく西洋近代医学であった。このとき同時に、患者もまた理性的な観察者として、自らの身体に関わることを治療者は期待する。このような治療者の態度は、患者の主観的な身体の体験のみならず、治療者の主観的な身体の体験をも治療場面から排除していると考えられる。このような観察態度から得られる心身相関の気づきももちろん存在するが、そこから得られる気づきには限界があると考えられる。他方プロセスワーク(Arnold Mindell, 1985)は、身体と心のどちらか一方に還元することのできない心身一如の身体“ドリームボディ”という概念を提案し、主観的な身体の体験から気付きを得るためのアプローチを発展させてきた。プロセスワークで扱う主観的な身体の体験は、その体験と主体との関係によって複数に分類される。1.一人称の身体(”I”としての身体):患者(または治療者)が主観的に体験する自分の身体、2.患者(または治療者が)二次プロセス的に体験する自分の身体(一人称であり三人称である身体)。3.二人称の身体:患者と治療者の主観が相互に影響を及ぼして形成される、間主観が体験する身体(“we”としての身体)、4.間主観が二次プロセス的に体験する身体("not we”としての身体)である。臨床において、患者自身の身体経験への気づきが乏しい場合、治療者が治療場面で体験する身体経験(逆転移)を深めることは、治療を進める上で大きな手がかりになると演者らは考えている。このように、逆転移として治療者が体験する身体は、二人称の間主観的な身体であると言える。様々なレベルの主観的な身体と客体としての身体を共に扱うことによって、臨床的に使える気づきの糸口が、それだけ豊富になるのではないだろうか。
藤井 康子(ふじい やすこ)
平成13年に東京大学医学部医学科を卒業後、医師免許を取得。九州大学医学部附属病院心療内科に入局し、研修を受ける。その後壱岐公立病院(一般内科)に勤務。
平成16年から10年間、国府台病院心療内科にて勤務。
平成22年、日本心療内科学会登録医の認定を受ける。
プロセスワーク初級セラピストの資格を取得。
平成24年に、主体の成長についての論文(共著):
身体的、精神的、社会的健康を実現する医療のための「主体の成長モデル」作成の試み~「病態水準」と「心身医学的療法の5段階」と「M. Mahlerの発達モデル」をもとに~
平成26年に、治療者の主体の成長についての論文(共著):
治療者の自己分析記録にみられた三段階構造:治療関係における治療者の主体の成長度