シンポジウムⅠ 気づきと身の医療

薬に頼らない次世代型心身医療の実践
~マインドフルネスに基づく精神生理学的ストレスケア~

 竹林直紀

ナチュラル心療内科クリニック
アイ・プロジェクト統合医療研究所

 現在の保険診療による日本の医療では、薬物療法を中心とした限られた治療法しか選択することができず、症状が改善されない場合は処方される薬の種類や量が増えたり、長期に渡って医療施設を受診して検査を繰り返し受けたりすることになる。これは、従来の診断法が環境との関わりの中で引き起こされる自律神経系や内分泌系のストレス反応といった根本的な病態ではなく、結果として起こっている症状や身体所見にのみ焦点を当てていることによる。そこで演者は、治療法の制限を取り払うために5年前に自由診療に切り替え、従来の他者(医療専門家)による対症療法中心の「治療モデル」ではなく、「行動」「思考」「栄養」の3つの側面から、自ら病態自体を改善するために必要な方法を習得することを目標とした精神生理学的ストレスケアによる「教育モデル」としての新しいアプローチを実践してきた。これは、健康を維持するための「治癒システム」が人には備わっており、それを自ら高めていくことで症状や病気が改善するという自己治癒モデルに基づいた方法である。従って従来の診断名による分類は治療上ほとんど考慮せず、全ての患者に対して同じアプローチを行っている。環境の変化に伴う心身のストレス反応からの回復力(レジリアンス)を高めるために、バイオフィードバック・リラクセーション法・マインドフルネス瞑想・分子栄養療法・臨床アロマセラピーなどを組み合わせた精神生理学的ストレスケアの習得を目標とした10回の治療セッションを実施している。この方法は、脳というコンピューターのプログラミングを自分自身で行っていくようなものである。人を「身」という一つの有機体システムとして捉え、社会や自然との繋の中で動的平衡状態を維持するための自律性を回復することで、自ら症状や病状を改善し健康な状態に戻っていくことを促す方法であり、その中心となる基本概念が「今ここ」を意識するマインドフルネスである。

 
竹林直紀(たけばやし なおき)
【略歴】 ナチュラル心療内科クリニック 院長/アイ・プロジェクト統合医療研究所 所長

1957年生まれ。愛知医科大学卒業。関西医科大学、九州大学にて心身医学の研修を受けた後、米国サンフランシスコ州立大学ホリスティック医療研究所に2年間留学。バイオフィードバックや補完・代替医療(CAM)を中心とした米国におけるホリスティック医療・統合医療を心身医学の立場から研究。帰国後は、関西医科大学心療内科にて「統合医療プロジェクト」を立ち上げ、アロマセラピスト・鍼灸師・ミュージックセラピスト・タッチヒーラーなど各種CAMセラピストと統合医療の研究を行う。

 2005年、神戸三宮に心身医学領域の統合医療施設として『ナチュラル心療内科クリニック』を開院。セラピストによるアロマセラピーケアルームを併設。バイオフィードバック、呼吸法、自律訓練法、イメージ療法、マインドフルネス瞑想、分子整合栄養医学などのCAMを取り入れ、日本における統合医療クリニックのあり方を模索している。

20099月には、薬を全く使わない自由診療の統合医療クリニックとして再スタート。

2008年にアイ・プロジェクト統合医療研究所を設立。バイオフィードバック認定国際機構(BCIA)の認定プログラムを日本でも毎年開催。日本における統合医療の教育と普及を目指している。2011年には震災後のストレスケアとして、宮城、岩手、福島にて薬に頼らない「こころとからだのセルフケア」のセミナーを開催。その後も一般向けだけでなく、専門家のための「精神生理学的ストレスケア」のセミナーや講演活動を行っている。

現在、関西医科大学、神戸市看護大学、山梨県立大学看護学部、大阪赤十字病院看護専門学校の非常勤講師。医学生・看護学生などに「補完・代替医療、統合医療、ホリスティック医療」の講義や実習を行っている。

日本心身医学会代議員/専門医、日本心療内科学会登録医、日本統合医療学会代議員、日本バイオフィードバック学会理事、日本アロマセラピー学会評議員、日本ホリスティック医学協会理事、ホリスティックケア・プロフェッショナルスクール理事、Biofeedback Certification International Alliance (BCIA)認定資格