シンポジウム2 アレキシソミアと「身」の医療
「ストレス反応と心身への気づき:ホメオスタシスの観点から」
神原憲治
関西医科大学心療内科学講座
心身の健康にとって重要な概念の一つに、W.B. Cannon が1930年代に提唱した「生体恒常性」(ホメオスタシス, homeostasis)がある。これは、生物が自身のからだを常に一定の状態に保つ能力であり、様々な要因でからだの状態が乱れても、もとに戻す働きが本来備わっているというものである。
ホメオスタシスを保つ上で、からだの状態を適切に捉えることが重要である。そのための内的生理状態の上行性の機能は’interoception’(内受容)、その意識的な気づきはinteroceptive
awareness と呼ばれている。それには島皮質が大きく関与するとされるが(Craig, 2002など)、島皮質は大脳辺縁系との関連が強く、自律神経系や内分泌系に関与し、外部からのストレス反応と恒常性の維持に関わっている。
人類ではこのような調整機能と「心」との関係性、つまり「気づき」(awareness) という重要な側面がある。私が「こころ」や「からだ」とどのように向き合うかは重要なテーマであり、うまく向き合えないと心身に歪みが生じる。「こころ」との向き合い方がうまくいかない状態はアレキシサイミア(alexithymia, 失感情症)(Sifneos, 1973)、「からだ」との向き合い方がうまくいかない状態はアレキシソミア(alexisomia, 失体感症)(Ikemi, 1986)と呼ばれている。
これらを踏まえ、関西医大での心身症患者における精神生理学的ストレスプロファイルの研究では、ストレスに対する生理機能の反応の特徴、生理機能のゆらぎや複雑性との関係、自覚的な身体感覚との関係性などについて検討を重ねてきた。今回はそれらの研究を通して「アレキシソミアと身の医療」について考察したい。また、バイオフィードバックは生理的状態と自覚的な感覚とのマッチングを促すもので、interoceptive awarenessやその結果としてホメオスタシスを高める効果、感情への気づきの回復も期待される。時間が許せばこれらについての考察も加えたい。
関西医科大学医学部講師 心療内科学講座研究室長
京都ノートルダム女子大学客員准教授(大学院心理学研究科)
心療内科医、医学博士
【略歴】1989年大阪大学工学部を卒業後、1997年岐阜大学医学部を卒業し、内科研修を経て1999年関西医科大学心療内科学講座に入局。2005年より関西医科大学心療内科学講座研究主任、2006年関西医科大学医学部非常勤講師、2009年関西医科大学医学部助教・附属滝井病院医長等を経て、2011年より現職。
20013年6月~2014年5月、カナダ・マギル大学医学部生理学部門 客員教授。
日本心身医学会認定 心身医療「内科」専門医
日本心療内科学会 心療内科専門医
日本心身医学会代議員、教育研修委員会専門委員、専門医制度委員会委員、編集委員会
英文投稿推進ワーキンググループ委員
日本医師会認定産業医
日本バイオフィードバック学会理事、資格認定委員会委員
【著書】「バイオフィードバックとリラクセーション法」(共著、金芳堂)ほか
【Web】 http://body-thinking.com