「ソマティック心理学」という観点 

久保隆司

日本ソマティック心理学協会会長

カリフォルニア臨床心理大学院講師

 ソマティック心理学を日本語で表記すると、身体心理学である。本質的には一体である心身だが、ストレスの多い日常生活やトラウマ的な体験を通して、分裂的、解離的な状態も多い現実があり、それらの再統合が臨床目標である。さらに、ソマティック心理学は、「病理」からの回復を図るだけでなく、心身の統合によって、よりホリスティックな健康•成長•調和を目指すものである。

 心身間の対話の活性化に重点を置くソマティック心理学には、三つの人称からの視点の導入が有効であると考える。 一人称の視点:すなわち、身体、身体感覚を通じての、主観的な体験や気づきの意識の重視。たとえば、ソマティックス(身体技法、ボディワーク)や瞑想的手法がある。 二人称の視点:すなわち、関係性、愛着、間主観的な共感的意識、合意形成の場、共通体験の重視。たとえば、ソマティック心理療法的手法がある。 三人称の視点:すなわち、科学、事実などの客観性、実証性の重視。たとえば、多くの科学(神経生理学、脳科学、生物学、遺伝学等)的手法、薬物療法、理学療法等がある。 ソマティック心理学には、以上の三つの人称からの視点をバランスよく獲得しようとする意志と努力が不可欠であり、それゆえに、四人称の視点を獲得し、包括的で統合的な存在でありえるのである。 以上を踏まえ、たとえば、会長を務める「日本ソマティック心理学協会」では、ソマティック•エデュケーション(身体教育)、ソマティック•サイコロジー(身体心理学)、ソマティック•スピリチュアリティ(身体的霊性)の三つの柱を設定し、生命力(エス)の顕在化としての身体(性)を重視している。 心身の統合、または身心一如という理念に基づく医学が、心身医学、または心療内科であろう。そして、同様の理念に基づく心理学が、ソマティック心理学である。よって、お互い、重なる部分も多く、協力し合えるところ、学び合えるところも多いと思われる。今後の両分野の密なる連携と可能性に期待する。


【プロフィール】
久保隆司
大阪大学人間科学部卒。米国ジョンF.ケネディ大学大学院(専攻:ソマティック心理学)修了。アライアント国際大学/カリフォルニア臨床心理大学院(東京キャンパス)講師。臨床心理士。ローゼンメソッド公認ボディワーカー、その他。
日本ソマティック心理学協会会長、<身>の医療研究会副理事長、日本トランスパーソナル心理学/精神医学会理事、その他。
 著訳書:『ソマティック心理学』、『インテグラル理論入門I & II』(以上、春秋社)、『PTSDとトラウマの心理療法―心身統合アプローチの理論と実践』(創元社)、『ローゼンメソッド•ボディワーク―感情を解放 するタッチング』(BABジャパン)、その他。
HP: integralsomatics.jp e-mail: coolrabbit13@gmail.com