マインドフルネスアプローチ

竹林直紀

ナチュラル心療内科クリニック
アイ・プロジェクト統合医療研究所

 過去から現在、そして未来へと流れる時間軸の中で、人は今現在という瞬間に生きているということをつい忘れてしまう。特に現代社会は変化のスピードが速過ぎるため、動物としての人間はその変化についていくことができず、過去と現在と未来が意識の中で混在するようになってきた。これまでは、その時々の自然環境に適応するべく働いてきた自律神経系、内分泌系、免疫系といった身体機能は、今や人間自らが創り出した「文明環境」に適応させなければならない状況に陥ってしまい、さまざまな心身の症状や病気が引き起こされている。本来、「今ここ」といった現実世界の情報のフィードバックで自己制御されてきた身体機能が、過去や未来を意識し過ぎることで、現実には存在していない脳内の仮想世界の情報によるフィードバックがかかり、様々な不適切な生理反応が起こっている。それにもかかわらず、適応困難となった結果としての身体内の変調のみをミクロ的視点から修正しようとしても、一時的な変化で終わり、すぐに元の状態に戻ってしまう。通常、五感と身体感覚を通じて絶えず今この瞬間の情報が脳に入り続けることにより、記憶情報としての過去のストレスやトラウマ体験による不安・恐怖感と、それに伴う身体の自律神経系のストレス反応から回復することが可能となる。人も含めた地球上の生物は、刻々と変化する環境に適応しながら生きていくように創られており、これらの条件次第で健康にもなれば病気にもなるのである。マインドフルネスアプローチは、仮想現実ではなく現実世界の「今ここ」を自ら意識することで、心身の環境への適応能力を高めていく。その結果、過去や未来を意識し過ぎることで生じた苦悩から開放される。ワークショップでは、一般的には敷居が高いと感じる「瞑想法」としてではなく、セルフコントロール技法の一つとしてマインドフルネスを位置づけ、日々の生活での具体的な実践方法について紹介したい。


竹林直紀(たけばやし なおき)

【略歴】 ナチュラル心療内科クリニック 院長/アイ・プロジェクト統合医療研究所 所長

1957年生まれ。愛知医科大学卒業。関西医科大学、九州大学にて心身医学の研修を受けた後、米国サンフランシスコ州立大学ホリスティック医療研究所に2年間留学。バイオフィードバックや補完・代替医療(CAM)を中心とした米国におけるホリスティック医療・統合医療を心身医学の立場から研究。帰国後は、関西医科大学心療内科にて「統合医療プロジェクト」を立ち上げ、アロマセラピスト・鍼灸師・ミュージックセラピスト・タッチヒーラーなど各種CAMセラピストと統合医療の研究を行う。

2005年、神戸三宮に心身医学領域の統合医療施設として『ナチュラル心療内科クリニック』を開院。セラピストによるアロマセラピーケアルームを併設。バイオフィードバック、呼吸法、自律訓練法、イメージ療法、マインドフルネス瞑想、分子整合栄養医学などのCAMを取り入れ、日本における統合医療クリニックのあり方を模索している。

20099月には、薬を全く使わない自由診療の統合医療クリニックとして再スタート。

2008年にアイ・プロジェクト統合医療研究所を設立。バイオフィードバック認定国際機構(BCIA)の認定プログラムを日本でも毎年開催。日本における統合医療の教育と普及を目指している。2011年には震災後のストレスケアとして、宮城、岩手、福島にて薬に頼らない「こころとからだのセルフケア」のセミナーを開催。その後も一般向けだけでなく、専門家のための「精神生理学的ストレスケア」のセミナーや講演活動を行っている。

現在、関西医科大学、神戸市看護大学、山梨県立大学看護学部、大阪赤十字病院看護専門学校の非常勤講師。医学生・看護学生などに「補完・代替医療、統合医療、ホリスティック医療」の講義や実習を行っている。

日本心身医学会代議員/専門医、日本心療内科学会登録医、日本統合医療学会代議員、日本バイオフィードバック学会理事、日本アロマセラピー学会評議員、日本ホリスティック医学協会理事、ホリスティックケア・プロフェッショナルスクール理事、Biofeedback Certification International Alliance (BCIA)認定資格