各演者の抄録
トラウマケアの基盤としてのポリヴェーガル理論
津田真二
心身社会研究所 自然堂治療室・相談室
近年、多領域でますます喫緊の課題をなす「トラウマ」(トラウマティック・ストレス)の問題は、従来の「ストレス」の範疇に収まらぬ、固有の発生機序をもち、固有の対処方略を要する。大きな鍵を握るのは、心身相関の媒介変数たる自律神経系の働き方である。その骨格を、国内外のトラウマ臨床の現場で依拠されつつあるポリヴェーガル理論の新たな自律神経論(迷走神経の再検討)を手がかりに剔出し、本日の論議の足場としたい。
トラウマ・インフォームド・ケアについて
大岡由佳
武庫川女子大学 心理・社会福祉学部社会福祉学科
TICとは、「トラウマ理解に基づいた支援」を指しています。突然の病の告知や侵襲的な治療が施される際、圧倒されるような体験をしますが、その体験が私たちの脳を脅かすことを理解し、どのようにその状況に対応していくかを考えます。トラウマからの回復には、安心感を大切にすることや、ストレングス、レジリエンスの視点が重要です。それらの視点や、トラウマインフォームドな環境づくりについてお話します。
トラウマを有するこどもと支援者へのヨーガ
伊藤華野
一般社団法人こどもカルチャーEducation.JPN
「トラウマを負った人は感じるのを恐れていることが多い(van der kolk,2016)」と指摘されるよう、トラウマを有する子どもの多くは「感じないように」して生き延び、PTSDに行動を奪われています。危険が終わっても外に向きっぱなしになる意識を内に向けようとする技や快適で安定感のある感覚を自分でつくりだす智恵を「こどもヨーガ」は提供できます。おとなにはマインドフルネス・ヨーガとして有効に働き、カウンセラー等が有する二次受傷ケアに最適です。少しでもご体験いただけますように。
TFT(思考場療法)について
森川綾女
一般社団法人日本TFT協会
TFTは、鍼のツボを指で刺激することで、トラウマ反応、不安、恐怖、怒り、パニック、うつ、痛みなど心身の症状を改善する方法です。シンプルな手順で即効性があり、副作用もないことから、専門家の臨床だけでなくセルフケアとしても子どもから大人まで、治療者も含めて用いられています。PTSDや不安のランダム化比較試験など、エビデンスも重ねています。
SE™というトラウマ治療のものの見方
阪 幸江
北浜心理臨床オフィス/こころとからだのつながり相談室みらい
これまで演者は、個人や家族の問題について、認知・感情や行動、コミュニケーションのパターンに介入を行う、システムズアプローチのものの見方を中心に心理療法を行ってきた。トラウマの問題に対する困難さと限界を感じていたときに出会ったSE™は、「トラウマはその出来事に対して神経系がいかに反応するかという問題であり、神経系の反応パターンを変えるために主として身体感覚を用いる」という新しいものの見方を与えてくれた。当日はSE™ の紹介を行いつつ、SE™というものの見方を加えた日常臨床について述べたい。
多角的なアプローチを可能にする心理療法とは 〜EMDRと自我状態療法の可能性〜
小山聡子
さくメンタルクリニック
C-PTSDの症状は、愛着トラウマなど多くの問題が複雑に絡み合った状態で現れる。EMDRや自我状態療法は、トラウマケアにおける各段階において、身体、認知、感情や行動などへの多角的なアプローチが可能であり、他の技法との組み合わせの相性も良いといえる。今回は、EMDRと自我状態療法の特徴や作用機序について簡単に説明し、トラウマケアの3段階において各技法をどのように用いるかや、他の技法との組み合わせ方法についても提案する。
発達性トラウマ症と複雑性PTSD親子への併行治療
杉山登志郎
福井大学子どものこころの発達研究センター
わが国の子ども虐待への対応には決定的な欠陥があり、子どもの保護だけで、親の治療を行っていません。これでは、解決にならないことは言うまでもありません。短時間で治療が出来るので、普通の精神科外来で実施可能なTSプロトコールを用いれば、家族全員への治療が可能です。演者は発達性トラウマ症の子どもと複雑性PTSDの親という組み合わせの親子への併行治療に取り組んで来ました。TSプロトコールを紹介し、その治療実践を報告します。
トラウマと個人の成長に繋がる視点からのがん臨床の中での心理臨床について」
小杉 孝子
国立病院機構 近畿中央呼吸器センター 心療内科/支持・緩和療法チーム
がん臨床では、がん告知から再発、そして積極的治療の終了としての告知に続くなかで、トラウマとも表現できる体験が繰り返されます。連続して起こるその“トラウマ”に対して “なぜ、自分なのか・・・”と、患者さんがその意味付けを探る過程に心理職として寄り添う臨床の中で、個人の成長に繋がっていくケースを経験することは少なくありません。当日はいくつかの事例をトラウマと成長の視点から考えてみたいと思います。
トラウマとしての慢性疼痛
水野泰行
関西医科大学心療内科学講座/関西医科大学附属病院痛みセンター
過去のトラウマ体験は慢性疼痛の発症や経過に関係することが分かっている。また患者はしばしば適切な診断や治療が受けられないばかりか、周囲の人や医療者に理解されないことによる苦痛を経験している。患者自身も重篤な疾患への恐怖や、見通しの立たない不安を抱えており、このような慢性疼痛の体験そのものがトラウマとなりうる。難治性の慢性疼痛では、トラウマとの悪循環という観点で病態を検討することも必要である。
心臓病の医療の中でトラウマに対処するには
豊田英嗣
社会医療法人清風會 日本原病院心療内科
急性の心臓疾患を発症することは直接死に至りうるイベントである。ある日突然あまりに速くあまりに多くの圧倒される状況に我が身を治療者たちに任せる以外選択肢を持たない無力感を体験、すなわちトラウマを体験していると推察される。一方、小児期に逆境体験を抱える人は成人期に心筋梗塞等を含む重大な身体疾患に罹患することも知られている。トラウマと心疾患の関係性を考察し、心疾患を抱えた人のトラウマをどうケアするべきか考えたい。
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